受付で名札を渡しながら、毎回おなじことを思う。今日も黒、多いなぁ。
土曜の夜、30人規模の交流イベント。ドアが開くたびに入ってくるのは黒のニット、黒のワンピース、黒のジャケット。照明を落とした会場だと、名前と顔が一致しなくなる時間帯があるんだよね。
その夜、受付で立ち止まったひとりの女性がぽつりと言った。クローゼット開けても黒しかないんです、って。
黒しか着ない人は、そもそも服の話をしていない
黒ばかりだから恋愛がうまくいかないんでしょうか。
違うよ。黒い服が恋愛を止めているケース、現場ではほとんど見たことがない。止めているのは、黒を選ばせている考え方のほうなんだよね。
外さない色を選ぶ人は、恋愛でも外さない選択を積み重ねる。連絡先を聞かれるまで待つ。二次会に誘われても、迷惑かなと考えて先に帰る。好きだと気づいた時点で、脈がないほうに賭けておく。傷が浅くて済むほうを、無意識でぜんぶ拾ってるの。
服はその写し鏡にすぎません。だから差し色を足しても何も変わらない人が出てくるわけ。
現場で聞いた、黒を手放せない理由
去年の秋、ワイン会に来ていた34歳の看護師さん。上から下まで黒で、袖口だけがちょっと擦り切れていた。会が終わったあと、片付けを手伝ってくれながら教えてくれたんだよね。
昔つき合ってた人に、そういう派手なの似合わないねって言われて。それ以来、色物を買うたびにその声が再生されるんです、と。
グラスを拭く手が止まった。目線は下を向いたまま。声は淡々としてるのに、指先だけがずっとグラスの同じところを往復してた。
こういう話、ひとりやふたりじゃない。
母親に地味なほうが安心って育てられた人。太った時期の写真を見返せなくて、体のラインを消す癖がついた人。職場で若く見られてなめられた経験から、黒を鎧として着るようになった人。仕事が忙しすぎて、朝に色を選ぶ判断力がもう残ってない人。
そして、単純に黒が好きで似合ってる人。これがけっこういる(笑)。この層まで巻き込んで黒をやめさせようとするアドバイス、ほんと余計なお世話だと思ってるわ。
見られたくないのに、気づいてほしい
ここが一番深いところ。
黒を着る人の多くは、視線を遮断したいと言う。でも同じ口で、誰も話しかけてくれなかったと漏らす。
矛盾してるようで、してないんだよね。見つかりたくないのは、雑に扱われるのが怖いから。ちゃんと見てほしい相手にだけは、見つけてほしい。全方位に開くのが怖いだけで、閉じたいわけじゃない。
イベントの現場だと、この葛藤が動きに出る。壁際に立つ。ドリンクカウンターの近くで補充を手伝う。声をかけられると笑顔なのに、自分からは輪に入らない。
出待ちしてるの。誰かが見つけてくれるのを。
男性は黒い服の女性をどう見ているのか
交流会のあと、男性参加者に印象を聞き取ることがある。名前が出てこなかった女性について、なんて言うと思う?
怖かった、じゃない。地味だった、でもない。
いなかった気がする、なんだよね。
これはえぐい。しかも黒のせいというより、黒プラス低い声量プラス自分から動かない、この三点セットが揃ったときにだけ起きる。逆に黒でも印象に残る女性はちゃんといて、その人たちは笑ったときに歯が見える。声が届く。相手の話に前のめりになる。
30代前半の男性が言ってた言葉が刺さった。黒い服の子って隙がないから、話しかけて外したときのダメージがでかそうで、と。
男性は色を見ていない。近づいてもいい人かどうかを見てる。黒は近づくコストを高く見せる、それだけの話です。
黒が不利になる場面は、驚くほど限定されてる
黒が沈むのは、初対面かつ昼かつ自然光。この三つが重なったときだけ。
日曜の昼にカフェで開いたお茶会で、はっきり出た。窓際の席、レースのカーテン越しの光。黒のトップスを着ていた人の顔に、あごの下から鼻の脇まで影が落ちる。写真を撮って本人に見せたら、うわっと声が出て、スマホを押し返された。
夜のバーラウンジで同じ服を着ていた別の回では、まったく逆。肌が白く浮いて、輪郭がきれいに出る。参加者の男性が、あの人だけ空気が違って見えたと言っていた。
黒は光を吸う布。昼に着れば影を作り、夜に着れば肌を光らせる。それ以上でも以下でもないの。
だから、モテない色なんてものは存在しません。合わない時間帯があるだけ。
婚活とデートでの黒、使いどころははっきりしてる
お見合いや婚活パーティーの一回目、しかも昼。ここで全身黒は避けたほうがいい。理由は先に書いた光の問題と、写真に残ったときの写り方。プロフィール写真で黒を着ると、顔と服の境目が消えて、輪郭が細くなりすぎるんだよね。実物と印象がずれる。会ったときに、あれ思ってたより、という反応が生まれる。この最初のズレが後々まで効いてくる。
一方で、三回目以降のデート、それも夜の食事なら黒が強い。落ち着きが出るし、相手の親に会う場面でも黒は信頼を稼ぐ。婚活の後半戦は、可愛さより安心感が効く局面が増えるから。
うちのイベントから成婚した女性で、印象的な人がいる。彼女は黒を一枚も手放さなかった。代わりに、初回だけアイボリーのカーディガンを羽織るルールを作った。それだけ。
三か月後に報告に来てくれたとき、こう言ってた。中身を変えなくてよかったのが、いちばん続いた理由です、って。
変えるのは色じゃなくて、顔まわり30センチ
服を総入れ替えする必要、ないです。予算も気力も、そんなに残ってないでしょ。
いじるのは首から上の30センチだけ。
黒のトップスの下にベージュのインナーを一枚。首元の肌の面積が増えるだけで、影の落ち方が変わります。イヤリングを揺れるタイプに替える。光がちらつくと、相手の視線が顔に留まる時間が伸びる。あとは髪。黒の服に暗い髪だと、頭と体の境目が消えるから、毛先だけ明るくしてる人は表情が読み取りやすくなる。
素材を変えるのも効く。同じ黒でも、マットなコットンとつやのあるとろみ素材では、写真の写りがまるで別物。四十代以降なら、光を含む素材のほうが確実に肌が持ち上がるよ。
差し色を入れるなら、全体の一割まで。それ以上やると、着てる本人が落ち着かなくなって挙動不審になるから逆効果(笑)。

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