イベントの片づけをしていたら、会場の隅でAさんが立ち尽くしてた。
「4回目、行ってきたんですよ」
声が半音低かった。グラスの氷が溶ける音だけがやけに響いてね。
慎重、が言い訳になるのは3回目まで
付き合う前のデート回数は3回から5回に集まる。だから4回目で何もないこと自体は、そこまで外れた話じゃない。奥手な人はふつうにいるしね。
ただ、慎重という言葉が成立するのは3回目までだと思ってる。
二次会で、男性参加者が缶ビール片手にぽろっとこぼしたことがあってさ。
「本命なら3回目までに決めますよ。それ以上引っ張るのは、他と比べてる時です」
テーブルが一瞬しんとした(笑)。隣にいた別の男性が、それを否定しなかったんだよね。あの沈黙がいちばん雄弁だったなあ。
もちろん全員が計算してるわけじゃない。告白の仕方がわからないまま4回目に来ちゃう人はいる。でもそのタイプには分かりやすい癖がある。挙動が不自然なの。会計のときに小銭を落としたり、帰り際に三回くらい振り返ったり。好意を隠すのが下手だから、探さなくても漏れてくる。
危ないのは逆のほう。4回会っても何も漏れてこない人。落ち着いてて、優しくて、会話も途切れなくて、なのに一歩も動かない人。あれはね、動く理由がないくらい今の状態が快適なんだよ。付き合わなくても会えるし、告白のリスクもゼロ。誰が壊すっていうの、こんな居心地のいい部屋。
見分け方は、相手の話に他人が出てくるかどうか
判定に使ってるのは、相手の話にあなた以外の人間が登場するかどうか。
本命扱いされてる人は、相手の生活圏にじわじわ引き込まれていく。友達の名前が出る。職場の後輩の愚痴が出る。妹の結婚式の話が出る。そのうち、今度みんなで行く花見来ない、みたいな誘いが来る。
キープされてる人には、これが起きない。会話がいつも二人で完結してる。相手の世界の入口が、ずっと閉まったまま。
イベントでも同じ景色を見た。本命の女性を連れてきた男性は、開始十分以内に仲間へ紹介する。腰に手を添えるとかじゃなくて、ただ隣に立たせて名前を呼ぶだけ。あれ、見てるとわかるよ。所有じゃなくて、位置づけなんだよね。
次の約束の取り方にも出る。その場でスマホを開いて日付まで決める人と、予定確認してまた連絡するね、で終わる人。後者が三回続いたら、あなたは第一候補じゃない。相手のカレンダーには、まだ埋めたい別の枠がある。
時間帯も見てほしい。土曜の昼から誘ってくる人と、金曜の二十時以降しか出してこない人。後者は残り物の時間を配ってるだけ。
あと、四回会って一度もあなたに質問しない人。これは論外です。興味がないというより、知る必要を感じてない。
アプリ経由なら、同時進行は前提として読む
出会いがマッチングアプリだった場合、判断材料がひとつ増える。相手のログイン状況。
四回会ってるのにログインが途切れない人は、比較検討の途中。これは悪意でもなんでもなくて、アプリの構造がそうさせてるだけ。並べて選ぶ前提で作られてるんだから。
だから、退会した?って聞くのは早すぎる、と言われがちだけど、四回目まで来てるなら聞いていい。むしろそこを避け続けるほうが不利になる。相手の返答が、そのうちね、だったら、あなたはまだ比較対象の一人。
写真とプロフィールを最近いじってるかも見る。更新してる人は、まだ市場に出ている自覚がある人。
婚活文脈だと、時間の重さが年齢で変わる。二十代前半なら三ヶ月の停滞は誤差だけど、三十代半ばで三ヶ月は決して小さくない。同じ四回目でも、消費してる資源の量が違うんだよね。
好きなのか、もったいないのか
Aさんに聞いたことがある。
明日その人が北海道に転勤するって言われたら、追いかける?
彼女、フォークを持ったまま十秒くらい固まった。それから、追いかけないですね、って小さく言って笑ったの。目は笑ってなかったけど。
続けてもうひとつ投げた。その人と出会ってない三ヶ月前の自分を思い出して、寂しい?それともホッとする?
ホッとする、が出た人は、もう好きじゃない。使った時間と交通費と、美容院の予約を前倒しした自分がもったいないだけ。
心理学でいうサンクコスト効果ってやつ。回収できない投資を払った分だけ、撤退の判断が鈍る。恋愛だとこれが本当に厄介で、注ぎ込んだ量がそのまま愛情の量に見えてしまう。
四回のデート、往復の電車代、新しく買ったニット、深夜まで練った返信。ずしんと積み上がったそれを手放したくないだけであって、相手を手放したくないわけじゃない。
本当に怖いのは、相手を失うことじゃない
もうひとつ、みんながあまり口にしないやつ。
見切れない理由の大半は、その人が好きだからじゃないの。ゼロに戻るのが怖いから。
アプリを再開して、プロフィールを撮り直して、また初対面で出身地の話をして、また相手の顔色を読む。
四回のデートには、少なくとも積み上げた既知の時間がある。話が通じる相手がいる状態から、誰もいない状態に戻る。その落差が怖いだけ。
これを恋心と取り違えてる人、ものすごく多い。
新年会のとき、二十代後半の子がぼそっと言ったのを覚えてる。彼の何が好きかって聞かれても、答えられないんです、って。
土曜の予定が埋まってる安心感が好きなだけかもしれない、とも。言い終わったあと、彼女はコートの袖口をぎゅっと握ってた。
たぶんあれが本音。相手じゃなくて、埋まっている状態のほうを手放したくない。
そして、ここを自分で認められた人から順に、動けるようになるんだよね。
期限は回数じゃなくて日付で切る
あと一回だけ様子見ようを延長し続ける人が、いちばん消耗する。回数っていくらでも伸ばせちゃうから。
だから日付で切る。三週間後の日曜まで、みたいに。カレンダーに印だけつけて、誰にも言わない。相手に伝えた瞬間、それは期限じゃなくて交渉になっちゃうからね。
決めた日までに進展がなければ降りる。それだけ。
Bさんという女性がいた。三十代半ば、婚活歴二年。彼女は八回目まで待った。理由を聞いたら、ここまで来て切ったら全部無駄になるから、って。
九回目のデートの帰り道、相手が別の女性と付き合ったと知らされた。後日カフェで話を聞いたんだけど、彼女、その間ずっとおしぼりを畳み直してた。角をきれいに揃えて、開いて、また畳んで。
八回分の時間は、四回で止められたかもしれない。責めたいわけじゃなくて、期限がなかっただけなんだよなあ。
ちなみに、切る待つの二択じゃなくてもいい。三つ目に、保留を置いていい。
保留っていうのは、会うのはやめないけど、その人のために予定を空けておくのはやめる、という状態。誘われたら行く。でも土曜を丸ごと空けて待たない。他の出会いも止めない。
これ、罪悪感を持つ人が多いんだけど、相手だってあなたを唯一にしてないでしょ。対等になるだけ。
保留にした途端に相手の連絡が増える現象、けっこうな頻度で起きるよ。焦らせようとしなくても、優先順位を戻すだけで空気が変わる。
降りる前の、最後の一手
聞き方でこじれる人が多いから、ここは慎重にいこ。
私たちって何なんですか、はやめたほうがいい。あれは質問の形をした詰めだから、相手は反射的に防御に回る。実際それで空気が固まった場面を何度も見た。
やるなら軽く投げる。次いつ空いてる?って聞かれたタイミングで、そういえば私たちってどういう感じなんだろうねぇ、って笑いながら混ぜる。返事までの速度と目線で、だいたい判る。
もう一段はっきりさせたいならLINEで置く。
楽しいから会ってるんだけど、この距離感のままだと私がちょっと苦しくなりそう。どう思ってる?
責めてない。でも逃げ道も塞いでない。ここで曖昧な返事が返ってきたら、それがもう答え。考えるね、が三日続いたときも同じ。
フェードアウトは選ばない
四回会った相手に既読無視で消えるやり方、おすすめしない。言い切っちゃうけど、あれ、切ったほうが引きずるから。
人は未完了の記憶ほど長く保持する。ツァイガルニク効果って呼ばれてるやつ。黙って消えると、相手の中でも自分の中でも話が閉じないまま残る。半年後にふらっと連絡が来て、また揺れる。あのパターン、何回見たことか。
だから短く閉じる。文面はこれくらいでいい。
連絡ありがとうございます。何度か会えて楽しかったです。ただ、私は恋愛として進みたいと思っていて、今の関係のままだと難しそうなので、ここで終わりにさせてください。ありがとうございました。
理由を説明しすぎると議論になるし、相手を責めると連絡が続く。感謝と、進みたい方向と、終わりの宣言。それ以外は削っていい。
送ったあとにブロックするかは好みだけど、返信を待つ時間だけは自分に許さないほうがいいよ。既読の二文字を見つめる夜が、また始まっちゃうから。
悪者になりたくない気持ち、わかる。でもさ、四回も会っておいて何も言わずに消えるほうが、よっぽど雑じゃない?きちんと閉じられる人のほうが、次でちゃんと選ばれてる。現場で見てる限り、これはかなりの確率でそう。
一件だけ、こじれた例を出しとくね。
Cさんは四回目のあとに切ったんだけど、文面で相手の落ち度を並べちゃったの。予定をいつも濁されたこと、質問されなかったこと、全部書いた。気持ちはわかるよ、全部事実だし。
でも相手から長文の反論が来て、そこから二週間やり取りが続いた。共通の知人にまで話が飛んで、彼女、しばらくイベントに来なくなった。
切る決断は正しかったのに、切り方で三週間持っていかれた。終わらせる文章は、相手を納得させるためのものじゃない。自分が前に進むための扉を閉める作業だから、短いほど機能するよ。

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