金曜の夜、うちのイベントの二次会でのこと。ワインが半分残ったグラスを両手で包んだまま、彼女がぽつりとこぼした。友達の結婚式、来週なんですけど、行きたくないんですよね…って。
理由を聞いたら、声が少しかすれた。おめでとうって、心から言えないんです。笑顔は作れるけど、それが逆に苦しくて。テーブルの木目を見つめる横顔。まつげが小さく震えてた。
社会人サークルの運営を長くやってると、この顔に何度も出くわすんだよね。結婚ラッシュのど真ん中に立たされた人の顔。おめでとうが、なぜか喉の奥に貼りついて出てこない。
心から喜べないのは、あなたが真面目すぎるから
人間の脳って、放っておくと勝手に他人と自分を並べて採点しはじめる。心理学だと社会的比較って呼ばれてて、身近な同世代が何かを手に入れた瞬間ほど強烈に働くの。友達が婚約指輪の写真をあげる。その石のきらめきを見た数秒後、自分の左手の薬指が、やけに寒く感じる。あれ、意志が弱いからじゃないよ。脳の初期設定なんだ。
おもしろいのはさ、この比較でいちばん削られるのが、いい子ほどってこと。
うちのイベントに三年通ってくれてた三十歳の女性がいてね。誰よりも早く友達の投稿へいいねを押して、絵文字を盛ったお祝いコメントを添える。周りからは、優しい子だねって評判だった。でも二次会でこっそり見せてくれたスマホのメモ帳に、こう打ち込まれてたの。またおめでとうって書いた。また心が死んだ。
……ぐさっときたよね、これ。
祝福の言葉をきれいに並べられる人ほど、内側がすり減ってることがある。周りの期待に応える癖がついてるぶん、本音に蓋をして、笑顔だけ差し出す。その蓋、閉めるたびに分厚くなるんだ。感情を押し込めば押し込むほど、あとで倍のサイズで返ってくるからさ。むりに飲み込んだ悔しさが、関係ない場面でぷつっと爆発する人、何人も見送ってきた。
だから、むりに喜ばなくていい。投げやりな慰めで言ってるんじゃないよ。運営席から何百人と見てきた上での話。
おめでとうが刺さる瞬間は、SNSだけじゃない
インスタを閉じれば平気、って単純な話でもないんだよね。
高校の同級生グループのLINE。ひさびさに通知が光ったと思ったら、入籍しました報告と、指輪のアップ。祝福スタンプの雪崩に、既読をつけたまま親指が固まる。年末には、子どもの写真がどーんと刷り込まれた年賀状が届く。職場のランチでは、そろそろあなたも?なんて悪気ゼロの雑談が飛んでくる。実家の玄関をくぐった瞬間、で、相手はいるの、の一言。
小さな棘が、あちこちから刺さってくる。一本ずつは浅いのに、積もると地味に効くんだよなぁ。
しかもこの波、一度じゃ終わらない。結婚ラッシュのあとには、たいてい出産ラッシュが控えてる。ベビー誕生の投稿、マタニティフォト、命名の報告。ようやく慣れたと思ったころに、第二波がざぶんと来る。はぁ…って、ため息のひとつも出るでしょ。
年齢の話が絡むと、なおさら胸がざわつく。子どもを望むなら時間の制約がある、っていう現実。そこに指を突っ込まれると、ヒヤッと背筋が冷える人もいる。この焦り、消せって言われて消えるものじゃない。むやみに危機感を煽る記事もあるけど、その手の脅し文句にまで飲み込まれる義理はないからね。
SNSをミュートするのは、逃げじゃなくて手当て
正直言って、うちにいちばん多く届く相談がこれ。開くたびに誰かの結婚式、誰かの新居、誰かの満ち足りた週末。スクロールする指が止まらないのに、胸のあたりがザワザワして、気づけば一時間経ってる。夜のこの時間帯って、心がいちばん揺れやすいの。
ミュートしなよ、って提案すると、みんな一瞬ためらう。友達を切るみたいで罪悪感がある、って。
その気持ち、わかるよ。でもさ、傷がうずいてるのに、毎日わざわざ塩をすり込みにいく必要ってある?
常連さんのひとりが、思いきって結婚報告ラッシュの相手を全員ミュートにした。フォローは外さない、通知だけ消す。最初の三日間は、見ちゃダメと思うほど気になって、そわそわ落ち着かなかったらしい。それが一週間を過ぎたころ、朝のコーヒーの味がちゃんとわかるようになった、って教えてくれた。あのときの表情、憑き物が落ちたみたいだったな。
友情って、四六時中お互いの生活をのぞき合うことで保つものじゃないでしょ。少し距離を取ったって、大事な相手なら、ここぞってときにちゃんと戻れる。心がボロボロのまま会うほうが、よっぽど関係にヒビを入れるよ。
モヤモヤに名前をつけると、ほんの少しほどける
祝福できない自分が怖い、私ってこんなに性格ゆがんでたっけ、って自己嫌悪でぐるぐるする夜、あるよね。あのループから抜ける小さなコツがあってさ。
湧いてきた黒い気持ちに、名前をつけてあげるの。悔しい、羨ましい、私だって頑張ってるのに、取り残されたくない。ジャッジ抜きで、そのまんまスマホのメモに書き出す。汚い言葉で上等、誰にも見せないやつだから。
うちのメンバーで、それを半年つづけた子がいる。最初のページは、あの子より私のほうが絶対いい奥さんになれるのに、みたいな棘だらけの文字で埋まってたって(笑)。でも書いてくうちに気づいたらしい。私は結婚そのものより、取り残される感覚が怖かっただけなんだ、って。正体が見えた瞬間、指先の震えがすっと止まった、って言ってた。
感情を押し殺すのと、感情を見つめるのは、まるで別もの。名前のわからないお化けがいちばん怖いのと同じで、正体さえ掴めば、扱い方も見えてくる。羨ましいと思う自分を許してあげると、その気持ち、意外とおとなしくなるんだよ。
行きたくない結婚式、どうする?
冒頭の彼女みたいに、招待状を見た瞬間、胃がきゅっと縮む人、けっこういる。で、いつも伝えてるのはね、行くか行かないか、白黒つけなくていいってこと。
心がざわついて眠れないほどなら、断る選択があってもいい。祝儀を包んで、お祝いのメッセージだけ送って、その日は自分をいたわる。それで薄情だなんて、誰にも言わせなくていいから。むりに笑顔で参列して、帰りの電車で涙腺が決壊するくらいなら、はじめから距離を選ぶほうが、ずっと健やかでしょ。
行くと決めたなら、完璧な祝福役を演じようとしないこと。ぜんぶの瞬間に感動しなきゃ、なんて重荷は下ろしていい。受付の花がきれいだったとか、料理のひと皿がおいしかったとか、そんな小さな救いをひとつ拾えたら、その日は合格。心の中でひっそり、私はここまでで十分やった、って自分に花丸をつけてあげて。
うちの常連さんに、式の途中で一度席を立って、化粧室で三分だけ深呼吸してた子がいた。戻ってきた顔、入場のときよりやわらかかったな。全部を耐えなくていいんだよ。逃げ道を先に用意しておくだけで、意外と最後までいられたりするから。
友達が遠くなる
友達が結婚すると、その子の生活の優先順位が入れ替わる。急な誘いに乗れなくなる、夜遅くまでの長電話が減る、話題が式の準備や新居のことに寄っていく。前は横並びだったはずの関係が、なんだか立場の違う二人みたいになる。この居心地の悪さ、友情を失う怖さとは、ちょっと種類が違うんだよね。
去年の交流会で隣に座った子が、こんな話をしてくれた。仲良しだった親友の結婚ラッシュがきっかけで、連絡を全部絶っちゃった時期があった、って。向き合うのがしんどくて逃げたらしい。それを聞いた留学先の友人が、私だったら子ども連れてでもあんたに会いにいく、環境が変わったって私たちの関係は変わらない、って言い切ってくれて。その一言に背中を押されて、絶っていた相手へ勇気を出して連絡したら、寂しかったよって泣かれたんだって(泣)。
ライフステージがずれても、つながり方はいくらでも組み直せる。会う頻度が落ちても、ゼロになるわけじゃない。距離ができることと、縁が切れることは、まったく別の話だから。
置いていかれたって、いったいどこに?
みんな先に行っちゃった、私だけ足踏みしてる。この感覚の奥には、結婚っていう一本のレールがあって、そこから外れた自分は脱落者、っていう思い込みが埋まってる。
でもそのレール、そもそも誰が敷いたんだろうね。
順番どおりに手に入れていくのが幸せの正解、みたいな空気。あれ、けっこうな幻だよ。結婚した友達が全員、毎晩ぬくぬくの家庭にほくほく顔で帰ってるわけじゃない。うちには既婚者向けの会もあるんだけど、そこで、独身の頃がいちばん自由で輝いてたなあ、って遠い目をする人、ほんとに少なくないから(笑)。隣の芝が青いんじゃなくて、青く見える角度だけを切り取って眺めてるだけ。SNSなんて、幸せの瞬間を標本みたいにピン留めして並べる装置だしね。
独身のいまだからできること、地味にいっぱいあるでしょ。金曜の夜に思い立って始発まで飲むのも、貯金をまるごと旅費に溶かして一人で海外へ飛ぶのも、休日をぜんぶ自分のためだけに注ぎ込むのも。既婚の友達が、その話をまぶしそうに聞いてくること、あるんだよ、ほんとに。
現場で、いちばん早く相手が決まる人の共通点
炎上覚悟で言うけどね、焦ってる人から順に、うまくいかなくなる。
婚活イベントを何十回も回してきて、くっきり見えたパターンがあってさ。今日こそ決めなきゃ、この一年がラストチャンス、って前のめりな人。その必死さ、びっくりするほど相手に伝わるの。目が笑ってない。会話してるようで、値踏みしてる空気が、じわっとにじみ出る。受け取る側は、それを敏感に嗅ぎ取るんだよね。
反対に、するっと相手が決まっていく人は、恋愛以外の心の置き場所を持ってる。仕事に打ち込んでてもいい、推し活でもいい、週末の登山でもいい。夢中になれるものがある人からは、余白の匂いがするの。その余白に、人はふっと吸い寄せられていく。
いちばん記憶に残ってる女性がいてさ。彼女、口ぐせみたいに、私、結婚とか興味ないんで、って言ってた。あれ、たぶん強がりだった。友達の結婚ラッシュのたびに、家でひとり泣いてたって、あとから知ったし。それでも、婚活を頑張るぞって肩に力を入れるのをやめて、前からやりたかった陶芸教室に通いはじめたの。ひんやりした土を、無心でこねる時間。三か月後、その教室で出会った人と、いまは一緒に暮らしてる。
その一方で、誰よりも完璧に、おめでとう!を演じきってた人が、いちばん長く相手に恵まれなかったりする。本音を押し込めたまま出会いの場に立っても、その重みが、ふとした表情ににじみ出ちゃうからね。

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