金曜の夜、広告系の会社で働くMさんが、グラス片手に静かに笑ってた。手つきが妙に様になってて、受け答えにひとつもブレがない。まわりの男性陣、あきらかに気圧されてたんだよね。 あー、この空気。またこのパターンか…そう思った瞬間、Mさんが取り皿を床に落とした。カシャン。 しゃがんで拾おうとした拍子に、まとめてた髪がふぁさっと崩れて、口に手を当てながら「うわ、わたし今日ドジすぎ…」って肩をすくめたの。 その一瞬。向かいの男性の肩が、すとんと落ちた。面接でも受けてるみたいに強張ってた表情が、ふっとほどけていく。
うちのサークルで、この手のシーンを何十回見てきたことか。
強くて、隙がなくて、かっこいい。なのに恋愛だけがどうにも噛み合わない女性。 その隣で、同じくらい芯が強いのに、なぜか男性がそばを離れない女性。 ふたりを分けてるのは、性格の優劣じゃない。もっと単純で、ちょっと意地悪な話なんだよなぁ。
弱そうで強い女は、弱いフリが上手いわけじゃない
男性ウケのいい強い女は、弱いフリを演じてなんかいない。 芯はしっかり強いまま。ただ、隙の出し方だけ心得てる。
うちのイベントで好かれてた女性を思い浮かべると、はっきり共通するクセがある。 判断は速い。なのに人の意見を頭ごなしに潰さない。 自分の考えははっきり持ってる。それでいて、相手の話を途中で奪わず最後まで聞ける。 ひとりで全部こなせそうな顔をしてるのに、本気で困ったときだけ、あっさり「ここ、助けてもらっていい?」って手を挙げられる。 この落差。強さとゆるさが、同じ人の中で溶け合ってるの。
心理学にゲインロス効果と呼ばれるものがある。ずっと優しい人より、クールに見えてた人がふいに見せる優しさのほうが、深く刺さるという話。 強い女の隙が効くのは、まさにこれ。 きっちりした人が、ふっと崩れる。その振れ幅が、そのまま相手の心が動く幅になる。
去年、飲食で店長をやってるSさんが来た回があった。テキパキしてて、正直ちょっと近寄りがたい人。 なのに二次会で、頼んだデザートが目の前に着いた瞬間、目がまんまるになって「わ、来た、待ってた…」って前のめりになったの。 その一秒で、隣の男性との距離がぐっと縮まった。ついさっきまで敬語だった彼が、崩れて笑ってた。 仕事の顔しか見せてなかった人が、子どもみたいな表情を一瞬こぼす。あの破壊力たるや、ね。
褒められたときの受け方にも、差が出る。 弱そうで強い女は、褒め言葉を「いえいえ全然」で押し返さない。ふっと受け取って、はにかむ。 自己肯定が薄い人ほど、褒められると反射で否定しちゃう。彼女たちは、ありがとう、で受け止める余裕を持ってるんだよね。
反論の出し方も、うまい。 違うと思っても、正面から否定でぶつけない。それ面白いね、でもわたしはこう思うんだよなぁ、って一回受けてから返す。 同じ中身でも、殴るのか手渡すのかで、伝わり方が丸ごと変わるの。
自分がどっち寄りか知りたいなら、直近のデートをひとつ思い出してみて。 相手に何か頼んだ場面、あった?ひとつも浮かばないなら、たぶん気を張りすぎてる側。 頼れなかったんじゃない。頼る余地を、自分で先に消してた可能性が高いよ。
一方で、怖いと言われる女性がやりがちなこと
じゃあ、なぜ同じ強さが、片方は魅力になって、片方は近寄りがたさになるのか。 実際に見てると、怖いと言われる女性には、笑っちゃうくらい共通した行動がある。
いちばん多いのが、相手の話を事実で殴っちゃうこと。 以前うちのイベントに、金融で働くKさんという女性がいた。回転が速くて、話してて気持ちいいくらいキレる人。 ただね。男性が「この映画、たしか去年公開で」って言った瞬間、「あ、それ一昨年です」ってノータイムで訂正したの。 場の空気が、ザワッと固まった。 Kさんの言い分は正しい。事実として、ぐうの音も出ないくらい正確。でもその正しさが、相手のプライドをスパッと切り落とした。 (うわ、今の…もったいなさすぎる…) テーブルの下で、わたしの手のひらにじわっと汗がにじんだ。
正しさで相手を黙らせた回数と、恋愛の詰まり具合は、きれいに比例する。断言できる。
次に目につくのが、腕組み。 本人は、ただ話を聞いてるだけのつもり。なのに腕を組んで顎を少し引いた姿勢が、相手に値踏みされてる感覚を送っちゃうんだよね。 初対面の男性がいちばんビビるのが、この無言の圧。査定されてる気がして、言葉がどんどん縮む。
あとは、なんでも自分で仕切っちゃうタイプ。 店の予約も、席順も、割り勘の計算も、気づけば全部やってる。周りは、そりゃ助かる。ほんとに、ありがたいの! でもね、男性側からすると、自分の出番がどこにもない。 守る隙間も、頼られる余白も、ぜんぶ手前で埋めちゃってるから。手を出す場所が、残ってない。
もうひとつ厄介なのが、先回りの自虐。 どうせわたし可愛くないしって、傷つく前に自分から言っちゃうやつ。予防線のつもりが、相手にフォローの義務を丸投げしてることになる。 しかも会うたびに出ると、相手はだんだん息切れしてくる。守ってほしい合図のはずが、逆に壁を積んじゃうの。
この四つ、意地が悪いから出るわけじゃない。むしろ有能で、誠実で、気が回りすぎるから出る。だからこそ、見ててこっちの胸がきゅっとなる。
なぜ、緩められない女になってしまうのか
怖いと言われる女性を責める気は、まるでない。 その強さ、たいていは自分で身につけるしかなかったものだから。
うちのサークルに長く通ってくれてたAさんが、二次会の帰り道で、ぽつっと言ったことがある。 上の子で、下にきょうだいがいて、親は共働き。物心ついた頃には、しっかりしてるのが当たり前だった、って。 甘えたいと思うより先に、甘えたら親が困る、が立つ。 できないと言えないまま大人になったら、いつの間にか、人に頼るのが下手な女ができあがってた、と。 街灯の下で、Aさんの横顔が、ほんの少しだけ歪んだ。声のトーンが半音下がったのを、今でも覚えてる。
カウンセリングの世界でもよく言われること。早くに自立せざるをえなかった人ほど、甘える回路が育ちにくい。 甘え方を知らないんじゃないの。甘えることに、自分で許可を出せてないだけ。心の奥に、緩んだら迷惑がかかる、が刷り込まれてる。
もう一段下に、迷惑をかけたくないが張りついてる人もいる。 頼るのは相手の時間を奪うこと、って思い込んでる。だから何でも自分で抱える。 抱えてひとりでパンクして、そのしんどさが恋愛の場面でだけ噴き出して、重いと言われる。順番が、まるっきり逆なの。普段いっさい緩めないから、緩んだ瞬間に決壊する。
ここに、皮肉なねじれがある。 強くないと認めてもらえないと思って強くなったのに、その強さが今度は、愛されにくさになって返ってくる。 強くても愛されない。かといって、弱くても愛されない気がする。 このダブルバインドで身動きが取れなくなってる人、ほんとに多いんだよね。はぁ…。
見分け方は、たぶんここ。 気を張ってる自分にすら、もう気づかなくなってたら、緩む練習がいるサイン。 気を抜くと誰かに負担をかける、が口ぐせみたいに湧くなら、それは性格じゃなくてクセ。クセなら、ちゃんとほどけるからね。
弱いフリはしなくていい。鎧を脱ぐ相手を一人だけ決める
男は弱い女が好き、っていう例のフレーズ。あれ、半分は嘘。 現場で最後まで好かれてたのは、弱い女じゃなかった。強いのに、特定の相手の前でだけ、ふっと緩める女。 全方位に無防備な人でもない。全方位に武装した人でもない。この人の前でだけ鎧を脱ぐ、その選び方を見せられる人が、いちばん残ってた。
だから、性格を丸ごと変える必要なんて一ミリもないの。 気が強いままでいい。仕切れる有能さも、そのまま持ってていい。 入れ替えるのは、たった一つ。全員に張りっぱなしだった気を、心を許せる相手の前でだけ、意図して下ろす。それだけ。
心理学に自己開示の返報性という考え方がある。こっちが少し弱みを差し出すと、相手も同じ分だけ心を開き返してくる。 鎧を下ろすのは、負けじゃない。あなたを頼りにしてる、っていう合図を手渡す行為なんだよね。
やることは、拍子抜けするくらい地味。 瓶の蓋が開かないとき、意地で開けきる前に、そっと渡してみる。 相手が何かしてくれたら、平気なフリで受け流さないこと。頬がゆるむのを隠さずに、ありがとう、って目を見て伝える。 たったそれだけで、相手の中のあなたの居場所が、静かに変わっていくから。
実は、さっきのKさん。あの回から半年くらいして、付き合った人を連れて挨拶に来てくれた。 相変わらず理屈っぽくて、キレッキレ。でも、彼が言葉に詰まったとき、待ってあげてたの。 訂正、しなかった。ただ、黙ってうなずくだけ。それだけで、あの人の周りの空気、まるっきり変わってた。
強いことは、恋愛のハンデじゃない。 隙を見せられないことだけが、ハンデなんだよね。

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