社会人の交流イベントで受付に立っていると、毎回ひとりは寄ってくる人がいる。ここに、私のこと分かってくれる人っていますかね。半笑いなのに、目の奥はぜんぜん笑ってない。あの視線、案外こっちに刺さるのよ。
おもしろいことに、その質問をする人ほど、その日、誰ともちゃんと喋らずに帰っていく。数えきれないくらいの人を見てきたけど、これはもう法則みたいなもの。
理解してくれる人を探してる人ほど、見つからない
うちのイベントに、半年くらい毎回来てた女性がいた。三十代前半、仕事もできて、二言三言で頭の回転が速いのが伝わる人。彼女、来るたびに同じこと言うの。今日もピンとくる人いなかった、って。
ある回の二次会で隣の席になって、軽い気持ちで聞いてみた。理想ってどんな人なんですか、と。返ってきた答えが、なかなかだった。私の話を最後まで遮らずに聞いて、否定しないで、言わなくても察して動いてくれて、ひとりにしてほしい時はそっとしておいてくれる人。
口には出さなかったけどさ。彼女が探してたの、恋人じゃなかったんだよね。あれはもう、母親。生まれてこのかた一度も満たされなかった、無条件にぜんぶ受け止めてくれる存在。それを、初対面の男性に求めてた。見つかるわけがない。他人の三十年分の穴を、出会って数時間の人が埋められるわけ、ないもん。
恋愛心理の世界でも、近いことが言われてる。人は相手そのものじゃなくて、自分の頭の中にある枠ごしに相手を見てる。恋に落ちた最初の数ヶ月なんて、お互い都合のいい幻を眺めてるだけ、なんて表現されることもあるくらい。完璧な理解者っていう物差しを握りしめてる限り、目の前の人間は会う前から全員、減点スタート。最初から負けの決まった勝負に、毎回エントリーしてるようなものでしょ。
その彼女、今どうしてると思う? まさかの展開で、ぜんぜんタイプじゃないって言い切ってた男性と連絡を取り続けて、今は一緒に住んでる。何が変わったか。相手を探すのを、やめた。そのかわり、自分のことを少しずつこぼすようになった。
価値観が合う、の正体は趣味の一致じゃない
価値観の合う人と出会いたい。これも、ほんとよく聞くフレーズ。で、みんなプロフィールに書くんだよね。映画好き、カフェ巡り、旅行が趣味、って。マッチングしやすいから。
正直言って、そこ、ほぼ勝負を分けない。
長くやってると見えてくるの。趣味がぴったり揃ってるのに、しょっちゅうギスギスしてるカップル、山ほどいる。逆に、休日の過ごし方がまるで噛み合ってないのに、なぜか穏やかなペアもいる。差はどこにあるか。もめた時の、温度。
意見がぶつかった瞬間に、相手をやり込めにかかる人なのか。それとも、いったん相手の言い分を自分の中に入れてから返す人なのか。価値観が合うって、好きなものが揃ってることじゃなくて、ズレた時のさばき方が似てること。何百組と見てきて、ここだけは譲れない。
うちの常連だった男性で、忘れられない人がいる。ある女性と話が割れた時、ムッと黙り込むでも、声を張るでもなく、なるほど、そっちから見るとそうなるのか、って一回ちゃんと受け取ってた。横で見てて、その場の空気がふわっとゆるんだのが分かったもん。その二人、半年後にはもう付き合ってた。彼女があとで言ってた言葉が、まだ残ってる。あの人の前だと、何を言ってもいい気がするんだよね、って。
一緒にいて落ち着く人って、結局どういう人?
ドキドキしないから、この人でいいのか分からなくて。これ、二次会でいちばん多い相談かもしれない。
はっきり言っておくね。ときめきを安心の上に置いてる間は、何回恋愛してもたぶんしんどいまま。
心臓がバクバクする感覚って正体をよく覗くと、けっこうな割合でただの不安なの。この人の気持ちが読めない、いつ切られるか分からない、っていう緊張。それを恋とすり替えてる人が、多すぎなんだよ。落ち着く相手の前で胸が静かなのは、冷めてるからじゃなくて、警戒しなくていいから神経が休んでるだけ。
見分け方、受付の椅子から見てきた肌感で言うとね。まず、沈黙が気まずくない。会話が途切れた時に、とっさにスマホへ逃げずにいられる相手は、かなり本物。それから、自分のいちばんダサい部分を出した時の、向こうの反応。
これも実際にあった話。うちのイベントで、酔った勢いで盛大に噛んだ自分の失敗談を、げらげら話してた女性がいた。聞いてた男性、声を出して笑ったあと、いや俺なんかもっとやらかしてますからって、自分の恥を上から重ねてきたの。次の瞬間、彼女の肩から、すーっと力が抜けていくのが見えた。あれは、効く。
地味だけど見逃せないのが、お店の人への態度。注文の時に店員さんへぞんざいになる人は、付き合って三ヶ月もすると、こっちにも同じ顔を向けてくる。これ、ほとんど外れたことがない。
ありのままの自分でいられる、ってフワッとした言葉だけど、現場に置くと輪郭がくっきりしてくる。盛らなくていい、繕わなくていい、機嫌をうかがわなくていい。素のテンションのまま隣に座っていられるか、ただそれだけ。
ひとつ、釘を刺しておきたいことがある。落ち着く、と、ただ甘えてるだけ、はぜんぜん違うものだから。相手に全部を受け止めてもらって、自分からは何も差し出さない。それは安心じゃなくて、片方がこっそり我慢してるだけの関係(笑)。さっきの彼女の肩がゆるんだのも、相手が自分の恥を見せ返したからでしょ。一方通行だと、ああはならないの。
で、結局どこで出会えばいいのか
じゃあ落ち着く人ってどこにいるのよ、ってなってるよね。
身も蓋もないけど、まずは母数。会ってる人数が、単純に少なすぎる人がめちゃくちゃ多い。職場と家の往復で、新しい人と口をきくのが月にほぼゼロ。それで運命の相手が降ってこないって、はぁ…、そりゃ来ないって。来るルートがそもそも無いんだから!
ここで効いてくるのが、同じ場所へ何度か通うこと。人って、繰り返し顔を合わせる相手を、だんだん安全な存在として処理していくようにできてる。心理学で昔から言われてる、接触の回数が警戒を溶かすってやつ。出会いの場に一回だけ突撃して運命を当てにいくより、何度か顔を出して馴染んでいく方が、勝率はずっと高いから。

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