カウンターのいちばん端で、グラスを両手で包むみたいに持っている子がいた。あの持ち方、隣に座った男性が話しかけた瞬間、肩がすっと内側に丸まったの。視線はテーブルの木目をなぞって、相手の顔には戻らない。
社会人のイベントサークルを何年も回していると、扉を開けて入ってくる一歩目で、その子が男の人に身構えるタイプかどうか、なんとなく読めるようになるんだよね。ツンとしてるわけじゃないの。笑顔はちゃんと作ってる。なのに目の奥だけ、ずっと非常口を探してる感じ。
「男が苦手な子」は、入り口の一歩でわかる
身構える子に共通してるのは、まず距離。物理的な距離をやたら気にするの。隣の椅子をほんの数センチ引く。グラスを自分と相手のあいだに置く。無意識の、小さなバリケード。本人はたぶん気づいてない。
第一印象のジャッジも、びっくりするくらい速くて厳しいの。会って数分で、この人はナシ、って心の中で線を引いちゃう子がいる。完全に減点方式。少しでも引っかかる仕草があると、そこで審査終了。男の人に何度も裏切られてきた子ほど、最初にきつめのフィルターをかけて、自分を守ろうとする。痛い目を見た数だけ、審査基準がシビアになっていくってわけ。
褒め言葉への反応も、わかりやすいかも。可愛いですねって言われた瞬間、ふっと真顔になる子がいる。普通なら照れるか、ありがとうございますって流すところ。でも男が苦手な子は、その一言の裏側を読もうとするの。(なんで今それ言った?何が目的なの?)って。好意がまっすぐ刺さらない。途中で一回、疑いのフィルターを必ず通る。
会話のシャッターが下りるのも早い。仕事の話、趣味の話、ぜんぶ普通にしゃべるのに、恋愛の話題に振った途端、声のトーンがすとんと一段下がる。あー、そういうのいいですー、って。にこにこしながら、ガラガラ…ってシャッター閉めてくるんだよね。
前の恋愛どうだったんですか、なんて聞くと、まあ色々ありました、で終わる。その色々の中身こそ、その子を今こうさせてる当の理由だったりするのに。深いところには、なかなか触らせてくれない。
あと、自虐がやたら多い子も近いかも。どうせ私なんて、とか、モテないんで、って自分から先に言っちゃうの。あれ、謙遜じゃなくて予防線なんだよね。期待させて、そのあと裏切られるのがいちばんしんどいから、最初に自分でハードルを地面まで下げとく。傷つくスキマを、先につぶしてるの。
グループでわいわい盛り上がってる時も、ひとりだけ半歩うしろにいたりする。会話には入るのに、自分の話はしない。聞き役に徹してれば、自分の情報を一滴も渡さずに済むでしょ。あれも、立派な防御。
それ、嫌いじゃなくて怖いだけかもしれない
男嫌いって言葉、私はあんまり正確じゃないと思ってる。現場で何百人と見てきて行き着いたのは、あれは嫌悪じゃなくて防衛なんだ、っていう結論。嫌いだから避けてるんじゃないの。怖いから、傷つく前に先回りして閉じてるだけ。
順番が逆なんだよね。嫌い、だから避ける、じゃない。守りたい、だから硬くなる、その結果として冷たく見える。冷たさは原因じゃなくて、いちばん外側の皮なの。
うちのイベントに半年くらい通ってた、アパレル勤務の20代後半の子がいてね。最初の頃は男性スタッフとも目を合わせなかった。ある打ち上げの夜、一回だけ、ぽろっとこぼしたことがあって。学生時代に付き合ってた人から、けっこうひどい裏切られ方をしたんだって。それ以来、男の人が優しくしてくると、その優しさ自体が怖くなった、と。またあの感じが来るかもしれないって、体のほうが先に身構える。本人の意思より早く。
これ、心理学でいう防衛機制にすごく近い動きなの。過去に強烈に痛い思いをすると、脳が同じパターンを警戒して、近づいてくるもの全部を脅威に振り分けちゃう。理屈じゃ止められない。反射だから。だから本人を責めても1ミリも前に進まない。むしろ責められた回数だけ、皮が厚くなっていくだけなんだよね。
男が苦手な子が恋愛に踏み出せないのは、性格がきついからでも、高望みしてるからでもないの。一回ガードを下ろして痛い目を見た記憶が、まだ生々しく残ってる。
もう一人、忘れられない子がいてね。事務職の30代前半の子。彼女の場合は、恋愛で傷ついたわけじゃなかったの。お父さんが、機嫌しだいで態度がガラッと変わる人だったんだって。昨日まで優しかったのに、今日はいきなり怒鳴る。子どもの頃からずっと、男の人の顔色をうかがって暮らしてきた。だから大人になっても、男性が近くにいるだけで、体が勝手に緊張モードに入っちゃう。恋愛より、もっと手前の、深い場所に原因がある子もいるんだよ。
男性側がやりがちで、いちばん逆効果なこと
ここからは、そういう子を好きになっちゃった男性に向けて書くね。
先に断言しとく。距離を詰めるの、完全に逆効果だから。
うちのイベントで何度も見てきた失敗パターンがあって。気になる子に、男性がぐいぐい来るやつ。連絡の頻度を上げる、すぐ二人で会おうとする、やたら褒める、特別扱いをアピールする。本人は好意を伝えてるつもりなの。でも男が苦手な子の脳内では、それ全部、警報。ピーポーピーポー鳴り響いてる。
一回ね、けっこう積極的な男性参加者がいて。可愛い系の子をずっと褒め続けてたの。その髪型いいね、その服似合ってる、笑顔最高、って感じで。三回目くらいだったかな。その子の手が、ぎゅっとバッグの持ち手を握ったのが見えた。指の関節が白くなってる。顔はちゃんと笑ってるのに、体は完全に逃げる準備に入ってた。次のイベント、その子はもう来なかった。
褒めること自体がダメなんじゃないの。中身のない褒めが、男が苦手な子には下心のレシートに見えちゃうんだよ。外見だけ、しかも会ったばっかり。これは何かを取りに来てる人の動きだって、本能が一瞬で読む。
特別扱いも、わりと地雷。みんなの前で一人だけえこひいきすると、警戒メーターが一気に跳ねる。(なんで私だけ?この人、何を期待してるの?)。距離を縮めるどころか、相手の防御システムをフル稼働させてるだけ。
あと最悪なのが、距離を縮めたくて下ネタに走るパターン。冗談のつもりで、ちょっと際どい話を振る男性、たまにいるの。男が苦手な子にとって、あれは地雷原のど真ん中で全力ジャンプするようなもんだから。一発で、この人は危険な側の人間、って分類されて試合終了。笑って受け流してるように見えても、家に帰る頃には連絡先ごとブロックされてたりするからね。
警戒が信頼に変わる瞬間、現場で見た近づき方
じゃあどうすんの、って話だよね。
答えはひとつしかない。安心。これに尽きる。
男が苦手な子の心が動くのは、この人は何も奪わない、って体が判断したとき。頭で納得するんじゃないの。体が先に、ふっと力を抜く瞬間が来る。肩のラインがゆるむ。さっきまで木目を見てた視線が、ちゃんと相手の顔に戻ってくる。あの変化に立ち会えると、見てるこっちまで鼓動が速くなる(あ、きた…!)。
うちのサークルで、男が苦手な子とちゃんと仲良くなれてた男性に、共通してたことを書いておくね。
女扱いをしすぎない。可愛いとかじゃなくて、その子が話した中身にちゃんと反応する。仕事の愚痴には、それしんどいやつじゃん、って普通に返す。恋愛の対象としてじゃなく、一人の人として向き合う。これがいちばん効くの。男が苦手な子って、女として値踏みされることに、もう疲れ切ってるから。
それと、一貫性ね。今日は優しいのに次は素っ気ない、みたいな温度のムラがいちばん怖い。いつ会っても同じ温度、同じ距離感。それを根気よく続けると、あ、この人は安全だ、ってデータが少しずつ溜まっていく。信頼って一目惚れしてくれないの。積分なんだよね。毎回ちょっとずつ足し算されて、ある日ふっと、しきい値を超える。
最後が、待てるかどうか。これがマジで難しい。相手のシャッターが半分上がりかけても、絶対こじ開けようとしない。向こうのペースで開くのを、平気な顔して待つ。焦って手を伸ばした男性は、ほぼ全員、振り出しまで距離を戻されてた。
もうひとつ、現場でじわじわ効いてたのが、二人きりを焦らないこと。最初はグループの中で、その子の安全圏を壊さないまま、ちょっとずつ言葉を交わす。大人数の場って、男が苦手な子にも逃げ場があるから、わりと自然に口が動くの。その積み重ねの先で、ある日ふと、二人で話しても平気な距離まで来てたりする。まわりに人がいる空間そのものが、警戒心のクッションになるんだよね。
それと、その子が何を言っても、まず否定しない。重っ、とか、考えすぎでしょ、なんて一言で、開きかけた口がぴたっと閉じる。へえ、そうなんだ、で一回まるごと受け止める。ここはジャッジされない場所だって伝わって初めて、人はやっと、本当のことを話し始めるから。

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