土曜の夜、四十人ぶんの声が天井にざわざわと溜まっていく。その中でいつも同じ景色を見るんだよね。女性は三人四人で輪になって笑っていて、男性は壁際でひとり、スマホの画面をぼんやり見てる。
男の人って消極的だなあ、で片づけるのは早い。あの壁際の彼、あとで話を聞くと耳まで真っ赤で、コースターの端をずっと折り曲げてたりする。
社会人イベントをぶん回してきて分かったことがある。世の中で言われている男女差、その大半は現場で再現しない。当たるのは、まったく別の場所。
脳が違うから恋愛観が違う、はもう手放していい
男は名前をつけて保存、女は上書き保存。男は追いかけたい生き物。男脳と女脳。
このへんの説、根拠がかなり心もとない。脳梁の太さで恋愛観が決まるという話は昔の小規模な研究がひとり歩きしたもので、その後の大規模な検証では支持されていない。心理学者のジャネット・ハイドが膨大な研究をまとめ直したときも、性別による心理的な差は思われているよりずっと小さく、同じ性別の中の個人差のほうが大きいという結論になった。
現場感覚とも合うんだよね。イベントで恋バナが始まると、元カレを一年引きずってる男性と、別れて二週間でマッチングアプリ入れ直してる女性が普通に隣同士で座ってる。逆もいる。性別で束ねた瞬間、目の前の人が見えなくなる。
じゃあ男女差はゼロなのか。ここは言い切る。ゼロじゃない。でも差があるのは感じる量じゃなくて、出し方の作法のほう。
好きな相手の前で、男性は表情の出力を止める
三十代前半の会社員、Kさんという男性がいた。イベント常連で、いつも受付を手伝ってくれる気のいい人。ある回で、彼が明らかに一人の女性を目で追ってた。
なのに、その女性が話しかけると急に真顔になる。声のトーンも半音下がる。他のテーブルではあんなにゲラゲラ笑ってたのに、しーんとした受け答え。
打ち上げの帰り道、駅までの十分でぽつりと言われた。緊張しすぎて何を喋ったか記憶が飛んでる、と。手のひらを見せてきたら、真冬なのに湿ってた。
女性側にどう見えていたか、後日ご本人から聞いた。私にだけ冷たいのかと思った、って。
この行き違い、現場で年に何十回も見る。
男性は好意が高まるほど、失敗の代償を意識して表情と口数を絞る傾向がある。愛想よくすることが軽さに見えるのが怖いという声も多い。一方で女性は好意が高まると声のテンションや相槌が増えやすい。感情の総量ではなく、警戒したときのアウトプットの向きが逆を向くのよ。
そっけなさを好意のサインとして真っ先に疑う必要はないけど、冷たい態度イコール脈なしという計算式は、あきらめなくていい人をあきらめさせてる。
黙り込む男性は、怒っているのではなく処理落ちしている
もうひとつ、はっきり言っておきたいことがある。話し合いの途中で男性が黙るやつ。あれ、無視じゃない。
夫婦研究で有名なジョン・ゴットマンが、対立場面で心拍数が上がりすぎると人は建設的な会話ができなくなると報告している。この生理的な高ぶりから戻るのに時間がかかる割合が、男性側で高く出ることが多い。心拍が一〇〇を超えたあたりで、脳は交渉ではなく防御に切り替わるわけ。
イベント後の相談でよく聞くのがこれ。話し合おうとすると彼が黙る、無言のまま部屋を出ていく、翌朝ケロッとしてる。放置されたと感じて、また責める。ぐるぐる回る。
Kさんとは別の、二十代後半の男性が言ってた台詞が忘れられない。頭の中が真っ白になって、間違ったこと言ったら終わると思うと口が開かない、と。彼は責められている最中、テーブルの下でずっと膝を揺らしていたそう。
黙るのは終了宣言じゃなくて、一時停止ボタン。二十分だけ離れて、時間を決めて戻る。この一手で救われるカップルを何組も見てきた。
LINEは速さより形を読む
返信が遅い、既読がつかない、スタンプ一個。ここでスマホを握りしめて夜中の三時までタイムライン往復する人、めちゃくちゃ多いよね。
読む場所を変えたほうがいい。速さは仕事量と生活リズムで簡単にブレる。ブレにくいのは形のほう。
こちらの話に質問を返してくるか。予定の話を具体的な日付に落としてくるか。会えなかった週に、別の日を自分から出してくるか。この三つが生きているなら、返信が半日遅かろうと関係は動いてる。
逆に、返信は速いのに質問がゼロ。会う話が必ず曖昧なまま流れる。これは丁寧に扱われているようで、実は保留にされてる。速いのに進まないほうが、遅くて進むよりずっと危ない。
現場で成立していったカップル、共通してLINEが短い。用件と日付だけ。会えばよく喋る。文字数と本気度は比例しないんだよ、これが。
男女差より効く変数がある
ここが今日いちばん伝えたいところ。
同じパターンで恋愛が終わる人には、性別ではなく愛着スタイルという説明のほうがよく当てはまる。心理学者のヘイザンとシェイヴァーが提唱した枠組みで、親密な関係でどう安心を確保するかの癖のこと。
相手の反応が少しでも減ると不安で確認したくなるタイプ。近づかれると息苦しくなって距離を取るタイプ。この二つが組み合わさると、追えば逃げる、逃げれば追うの往復が始まる。
イベント経由で付き合った女性が、半年後に相談に来たことがある。彼が連絡をくれない、私が悪いのかと。話を聞いていくと、前の恋人のときも、その前も、まったく同じ地点で同じことを言っていた。相手が三人とも違うのに、崩れ方が同じ。
これ、男性心理を勉強しても解けない。彼女が変えたのは、不安になった瞬間に返信を催促するのをやめて、翌朝まで待つという一点だけ。ぱたっと関係が落ち着いた。今も続いてる。
男はこうだからと納得しようとしていたことの多くは、性別じゃなくて、その人の安心の作り方の話だった。
察してもらうのを、そろそろやめない?
イベントで長く続くカップルを見てきて、共通点はひとつだけだった。読まずに、聞いてる。
寂しかったと言う。会いたいと言う。土曜の夜は電話したいと言う。相手を試すような遠回しの言い方を捨てた人から、順番に楽になっていく。
もちろん、言葉にしても届かない相手はいる。伝えたのに軽く扱われる、機嫌で人をコントロールしてくる、こちらの予定や交友関係に口を出して縛ってくる。これを男女の違いとして飲み込む必要はない。そこは差じゃなくて、扱いの問題だから。

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